雰囲気から作った家!? 新商品「間貫けのハコ」・開発者インタビュー
「間貫けのハコ」というなんとも強烈な名前。屋根と壁がうろこに覆われたようなインパクトのある外観。まるごと縁側みたいなこの家は、どうやってできたのか?
その始まりから完成までの紆余曲折の過程を、商品開発・デザインを担当したお二人にうかがいました!
──最初の開発会議では「窮屈なこの時代に、こころのオアシスとなる家」がテーマとして挙がったとのことですが、そこからどうやって「まぬけ」というコンセプトに行き着かれたのですか?
山中:無駄がなくなって便利になっていく一方で、無駄に含まれていた遊びや豊かさがどんどん排除されていくような時代の進み方をしているんじゃないかというのが前提としてあって。
BESSはそういったことに対してアンチテーゼというか、カウンターとなる価値観を提示してきたんですが、ここで一段それを高める必要があると感じていました。
秋本:同時に、今回は「雰囲気から作る」というテーマも会議で挙がっていましたね。
山中:その状態でオーダーがくるわけですよ(苦笑)。でも雰囲気だけで家は作れないじゃないですか。
それでおおらかさの究極というか、もっと肩の力が抜けた届けやすい価値観がないかと思ったとき、「まぬけ」という言葉がぽっと浮かんだんです。
そういえば萩本欽一さんが「マヌケのすすめ」という著書の中で「バカは責めの言葉だけどマヌケは許しの言葉だ」と語られていたなと思い出して、これはすごく伝わりやすいし、人への愛情も感じるし、コンセプトになりうると思ったんですよね。
そもそもBESSは「間」や「抜け」を大切にしながら暮らしを提案してきたので、それともっと向き合ってみよう、と。
──「まぬけ」というと悪いイメージを持つ方もいらっしゃるのでは?
山中:まぬけの語源を調べると、「間が抜ける」、つまり時間や空間が詰め詰めになっていないということなんですよね。
音楽でもファッションでも日本画でも「ヌケ」はいい意味で使われているし、実は日本人のもともと持っている美学や感覚に響く言葉なんじゃないかと思ったんです。
さらに今回は、ヌケの字に「貫け」を当てていますが、これは建築用語では柱と柱をつなぐ横架材のこと。この家では間と間をつなぐ、内と外をつなぐぐ、家と街をつなぐという意味を込めていて、あえて使っているんです。
──デザインイメージの前に「まぬけ」という言葉が出てきたのですか?
山中:ほぼ同時でしたね。デザイン面でいうと、当初から奇を衒ったものではなく新しいスタンダードを作るんだというイメージはありました。
なのでまずシンプルな家型から入って、おおらかにおおらかに、と緊張感を取り除いていったらいい感じに間がヌケて、同時に言葉も降りてきたんです。
──「まぬけ」を開発会議で発表したときの参加者の反応はいかがでしたか?
山中:ちょっとザワザワしましたね(笑)。
「まぬけ」という言葉はそもそも商品名やブランドメッセージとして残るとは思っていなくて、会議の参加者に自分の提案を伝えるために使ったんです。
真意を汲んでくれるメンバーが揃っていたし、「商品名にはできないだろうけどBESSのおおらかさが伝わる言葉だね」というのが大方の意見でした。
そのときは誰もこの言葉が表に出ると思っていなかったんじゃないかな・・・。
秋本:「窮屈なこの時代に、こころのオアシスとなる家」というテーマに対して、すごく腑に落ちましたね。
「まぬけ」というのはデザインだけでは作れない何かをまとった言葉で、まさに「雰囲気」だなと。これで進めるなという印象を受けました。
──会議資料には「まぬけ」というコンセプトと同時にデザイン案もあったということですが、イメージはどのようにして出てきたのですか?
山中:「ベーシックで個性的」を標榜するBESSですから、その新しい見せ方があったらと思っていました。
親しみやすさがキーになるはずだから仕上げもかっこつけないものが必要だと思い、試行錯誤する中で、屋根と壁が同じ素材でくるっと覆われていれば商品のキャラクターを強め、同時におおらかさを作れるんじゃないかというインスピレーションが湧いてきたんです。
どこか生きものみたいな存在感というか、愛らしさというか。
──開発が動き始めてからはスムーズに進んだのですか?
秋本:BESSの開発にスムーズはありません(苦笑)。
しかも「間貫けのハコ」はカタチ自体がシンプルなので、ひとつの操作で印象が大きく変わるデザインなんです。だから細かい詰めを一個一個慎重にやっていきました。
内部でいうと特徴的なのがすだれ貼り。国産杉は赤があったり白があったりと、材の色味がバラつくのが課題です。
また、今までBESSは長尺のものをあえて使っておおらかさを表現することにこだわってきました。
でも今回は、あえて短尺材で長さをそろえて整然と貼ることで、杉材の色味がバラつきという短所から長所に変わると考えました。最終的に、整然と貼られた中に自然材の色の変化が掛け合わさり、リズムのある新しい表現ができた。これがチャームポイントになりましたね。
──BESSの他の家々はウッドデッキが標準仕様ですが、今回縁側を中心に据えたのはなぜですか?
山中:家の中と外だけでなく、敷地自体と街をつなぐということをもっと積極的にやりたいと思ったんです。
古来、日本の家は道を歩いている人がふらっと庭まで入ってきて、茶飲み話をしたり、将棋を指したり、人が寄りついて“縁”を作る機能を持っていた。
だけどいつの間にかそれを失って、街との関係がどんどん希薄になっていったように思います。
街も家も人も拠り所をなくしてしまった。関係が薄まれば人のこころも閉じておおらかではいられなくなる。もしかすると、これが今の社会の閉塞感を生んだ要因のひとつかもしれません。
「家を開いて街とつながって近所付き合いが始まる」というような価値観をBESSとして再度提示してみたいと考えたとき、この縁側はそのシンボルになるんじゃないかと思ったんですね。
──「縁側ならではの暮らし方」とはどんな過ごし方でしょうか?
山中:BESSの家ではデッキの使いこなしとあわせて、軒下の過ごし方をずっと提案してきています。今回は、すっぽりと軒の中に収まりつつ、中の生活がはみ出してこられるような場所として作りたいと考えました。
デッキのようにテーブルや椅子が置けなくても、腰を掛けられてちゃぶ台が置けるスペースがあればいい。ただし中の床と近い位置にあって、開口部も大きく開け放てるようにする。
つまり波打ち際みたいに、海なのか陸なのか、家なのか庭なのかわからないあいまいなデザインにすることで、いろんなものがつながれるようになる。そんなことで家全体が縁側のような「おおらかな暮らし」が実現できるんじゃないかと思います。
秋本:具現化する過程でも縁側についてすごく考えましたが、メンバーの中から「パーソナルを作らない」という言葉が出たときにしっくりきたんですよね。
例えば、椅子を置いてしまうと「椅子の数だけ何人用の場所」と限定されてしまいます。その意味で、椅子っておのずとパーソナルを作っているとも言えるんです。でも縁側はどこに何人座ってもいいし、そんな暮らしが家の中全体にもどんどんつながっていく。そういうことを意識しながら詰めの作業を行いました。
──「間貫けのハコ」では床座の暮らしを推奨していますが、工夫されたのはどういったところですか?
山中:アイレベルは意識しましたね。中で座っている人と外で立っている人の視線が近くなるので、コミュニケーションとしての意味があるなと。
逆に、居間の床に座っている人とキッチンで立って料理をしている人との視線にはギャップができるのでそこは気を配って、ある程度距離感をとろうといったことを議論しながらバランスを調整しました。
──二階で特徴的なのはどういった部分ですか?
秋本:標準プランでは建具で囲った個室を設定していないんですよね。
屋根の勾配や吹き抜けにできるそのままの小屋裏の空間をうまく使いながら、最小限の壁で個室らしきエリアを作るというやり方をしていて、できるだけ空間はつながりながら、ひとりでも心地いい場所を作っています。
山中:そう、屋根勾配の操作で絶妙な高さを設定しています。天井や壁との距離感から感じる空間の親しみやすさも特長といえると思います。
秋本:平面図だけでは伝わらないかもしれませんが、実際に体験するとわかってもらえるんじゃないかと思います。
ぜひ、これからの時代に、家族とつながることの心地よさを感じてもらえたらと考えています。
──最後に、「間貫けのハコ」が閉塞感ある社会にどんな影響を与えることを期待しますか?
山中:まぬけの日本人がどんどん増えていくといいですね。
開発会議の時から言ってるんですけど、「間貫けなハコ」じゃなくて、「間貫けのハコ」なんですよ。
日本の社会をまぬけのほうに引っ張っていきたいです。
秋本:力を抜いていきたいですね!
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